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「知能検査を受けてください」と言われたら:知能指数(IQ)の本当の意味と子どもの可能性を広げる検査結果の使い方

この記事を書いた人

著者:森山 暖(もりやま はる)
公認心理師 | 総支援歴 23年(発達障がい支援中心)
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こんにちは、心理支援者の森山暖です。

学校の先生や保健師さんから「お子さんに知能検査(WISC-Vなど)を受けていただきたいと思います」と伝えられると、ほとんどの保護者の方が戸惑います。

なぜうちの子が知能検査を受けるの?

結果が悪かったら障がいって言われるのかな・・・

森山 暖

そのご不安、よく分かります。
でも、検査はお子さんを理解し、生活を充実させるための「絶好のツール」です。避けるのはちょっともったいないですね。

この記事でわかること
  • 知能検査で何が分かるか
  • お子さんが知能検査を受ける理由
  • 知能検査の流れ
  • 検査結果報告書の読み方

お子さんや、保護者の皆さんが安心して知能検査を受けられるよう、そして知能検査の結果を生活に生かせるよう、この記事で解説します。

倫理規定の遵守

この記事は各種心理的検査の倫理規定(秘密保持、適切な実施)を遵守し、公認心理師としての臨床経験に基づいた正しい知識と安心をお届けできるよう作成しています。


目次

知能検査って何?

「知能検査って何をするんですか?」って担任の先生に聞いたけど、先生もよく分かってなかったみたい・・

そんな検査を受けさせて大丈夫なの?

森山 暖

その疑問もよくお聞きします。実は『倫理規定』というルールで、内容を漏らしてはいけないんです。検査を行う心理職以外は、詳細を知らないことも多いんですよ。

今回は、倫理規定の範囲で、知能検査の概要をお伝えします。

知能検査とは

その子のIQ(Intelligence Quotient:知能指数)を把握します。IQとは、同じ年齢の子どもたちと比べて、認知機能(考える力、理解する力など)がどの程度かを数値で表したものです。100が年齢平均です。平均よりもできた課題が多ければ100より大きく、できた課題が少なければ100より小さくなります。

IQが示すもの
  • 言葉の理解力
  • 図形や空間の認識力
  • 記憶力
  • 処理の速さ
  • 論理的思考力

IQは人間の脳が持つ数多くの認知機能のうち、一部の代表的なものを数値化したものです。子供の全ての能力を測るものではありません。また、そのときの体調、環境等によっても数値が上下します。

検査の内容

知能検査ごとに様々ですが、代表的な課題は以下のようなものです。

  • 言葉の意味を言う
  • ブロックを組み合わせて模様を作る
  • 数字や簡単な文章を覚える
  • いくつかのイラストの規則性を見つける

検査時間

  • 幼児(2-5歳): 30-60分程度
  • 学童(6歳以上): 60-120分程度

多くのお子さんは「クイズみたい」「パズルみたい」と感じます。


なぜ知能検査を提案されたのでしょうか?

なるほど、知能検査がどういうものかは分かりました。でもなんでうちの子が検査を受けるよう勧められたのかな・・・

続いては、どのようなお子さんが知能検査を提案されるかをお伝えします。

学校からの提案理由

  • 授業の内容を理解するのに時間がかかるが、個別に教えると理解できる
  • 説明を聞いても理解できないが、プリントなどで説明すると理解できる
  • 説明は理解できるが、文字の読み書きに困難がある
  • 計算は得意だが、文章問題が苦手

保健師さんからの提案理由

  • 運動面は普通なのに言葉の発達がゆっくり
  • 家庭ではできることが健診会場だとできない
  • お友達よりもおもちゃに興味
森山 暖

どちらの場合も、『やり方や環境次第でもっと力が伸ばせそう』という気づきがきっかけのことが多いです。


知能検査の流れ

じゃあ、検査を受けてみようかな・・・。すぐに受けられるの?

続いて、検査の流れをご説明します。

STEP
日程調整

先生や保健師から提案があった後、心理士と日程調整をします。すぐには受けられず、2~3ヶ月後のこともあります。

STEP
検査当日

お子さんと検査者が1対1で実施します。お子さんが力を発揮できるよう、心理士がお子さんのペースや気持ちに寄り添って検査課題を進めます。

STEP
結果説明

検査の1〜2ヶ月後くらいに結果説明の面談があります(心理士が綿密に分析し、具体的な支援計画を立てるためにこの期間が必要になります)


検査結果をもらったら

IQ130だって!天才かも!

うちの子はすごく悪かった・・・。将来大丈夫かな・・・。

森山 暖

IQの数値はインパクト大ですが、一喜一憂は禁物! 数字だけに注目すると、 以下のような、思わぬ「落とし穴」にはまってしまいますよ。

1. 同じ数値でも背景が全く違う

例:言葉の理解が苦手な、IQが同じ「85」の3人のお子さん

Aさん(8歳)Bさん(8歳)Cさん(8歳)
言葉の力はかなり苦手だが、視覚的な力は平均以上言葉の力、視覚的な力ともに苦手だが、作業は早く丁寧言葉の力は平均以上だが、聞いたことを覚えるのがとても苦手
図や絵などを添えれば理解できる理解レベルに合った学習が必要聴覚情報を文字にすれば理解できる
必要な支援:視覚的教材の活用必要な支援個別的な学習指導必要な支援レジュメ等での言葉の視覚化

このように、困っていることや、IQが同じでも背景や必要な支援が全く異なります。数値だけでは、どのような支援が効果的かは判断できません。

2. 環境やコンディションによって数値が変動する

同じお子さんでも、検査を受ける環境や心身のコンディションによって数値が変動することがあります。

例:花子ちゃん(9歳)の検査結果の変化

検査時期環境・状況結果備考
小学1年生初対面の検査者、病院の検査室IQ82緊張が強く、疲れてもいた
小学3年生
(1年後)
慣れた検査者、学校の相談室IQ96リラックスして取り組めた

同じお子さんでも、環境や心身の状態によって14ポイントもの差が生じました。

森山 暖

同じIQでも、中身や当日の調子は人それぞれ。 お子さんを理解するには、 数値より「なぜその結果になったか」が重要なんです。

なるほど、IQよりも、その背景が重要なんですね。

IQの捉え方や、心理検査の活用方法については以下の記事も参考にしてください。


検査結果報告書に書かれていること

それでは、改めて検査結果を見てみましょう。

一般的な検査結果報告書には、以下のような項目が書かれていることが多いです。

検査結果報告書の構成
  1. 検査時の様子
  2. IQ(知能指数)
  3. 所見
  4. 支援方針

それぞれの項目について、事例を元に解説します。

太郎くん 小学校2年生 

 ハキハキした元気な子。頑張り屋で、宿題も一生懸命やってくる。学力に目立ったつまずきはないが、先生が授業中に質問をすると答えられない。普段やり慣れていることはとてもスムーズだが、初めてやるような活動は苦手で、いつも周りの子どもたちから少し遅れてしまう。担任の先生からの勧めで知能検査を受けることになった。

1.検査時の様子

 検査場面でどのような特徴が見られたかが書かれています。

太郎くんの場合

 検査課題にはとても一生懸命に取り組んだ。時々、検査者が言ったことを聞き逃したのか、「えっ?なんて言ったの?」「もう一回」と聞き返すことがあった。

2.IQ(知能指数)

 検査によって、全検査IQ(FIQ)、偏差IQ(DIQ)などの名称で書かれることがあります。また、言葉の力、視覚的な力、聞いたことを覚える力、作業する力などの分野別の指標得点(その分野ごとのIQのようなもの)が算出される場合もあります。

太郎くんの場合

 全検査IQ:103

 言語理解(言語的な力):103、知覚推理(視覚的な力):106 、ワーキングメモリー(聞いたことを覚える力):82 、処理速度(作業する力):110

3.所見

 検査時の様子や数値から、お子さんの得意不得意を推察し、主訴(困りごと)の背景を探ります。

太郎くんの場合

 言語理解、知覚推理がともに平均レベルであるため、「基本的な理解力はある」。しかし、ワーキングメモリーが低く、「聞いた情報を覚えることが苦手」であることが分かる。検査中も、聞き漏らしが見られた。このため、学校では「先生の話や口頭での指示を覚えていられない」という躓きに繋がっているのではないか。

4.支援

 3.の所見をふまえて、支援を提案します。主訴に対する「処方箋」といってもいいかもしれません。

太郎くんの場合

 「聞いたことを覚えることが苦手」なので、先生が言ったことは覚えにくい。ただ、基本的な理解力はあるので、大事な部分をプリントにまとめて渡し、聞き逃しても確認できるようにすれば理解できるのではないか。

 

森山 暖

的確な「処方箋(支援)」を作るには、 普段の困りごとの把握が欠かせません。 心理士から「園や学校と連携したい」と提案されたら、 ぜひ前向きに考えてみてくださいね。

知能検査を受けたその後は

検査も受けたし、報告書ももらったからこれで大丈夫だね。

森山 暖

いいえ、これからが大切なんです。

 「支援」は、一度決めたら終わりではありません。あくまで、検査時点での所見(=仮説)をもとに立てられたもので、必ずしも正しいとは限りません。また、お子さんの成長によっても、適切な支援は変化していきます。

 まずは2〜3ヶ月間、支援を試してみて、「上手くいったこと」「上手くいかなかったこと」を遠慮なく心理士に報告してください。私たち心理士は、そのフィードバックを基に支援方針を柔軟に見直し、お子さんの成長に合わせた最適な「処方箋」を継続的にアップデートしていくことが大切なのです。

まとめ:知能検査を受けるよう言われたら、まずは受けてみよう

今回は知能検査を受けることのメリットについて解説しました。

知能検査を受けることで、お子さんのことが今よりもずっと理解できるようになります。

知能検査を受けることで得られるもの
  • お子さんの強み、弱みの客観的データ
  • 現在の困りごとに対する支援の具体的な方法
知能検査を受けた後は
  • 検査結果を担任や保健師と共有し、「支援」を試してみる
  • 支援の「上手くいったところ」「上手くいかなかったところ」を心理士に再度相談

知能検査の提案を受けたとき、不安になるのは当然のことです。しかし、その一歩を踏み出すことで、きっとお子さんにとって、そして保護者の方にとっても、新しい理解と希望が生まれることでしょう。

そのほか、以下によくある心配事をまとめました。

Q&A

検査を受けると「発達障がい」の診断がつくのですか?

知能検査だけで診断が決まることはありません。

知能検査は診断のための「参考情報の一つ」です。診断は、医師が様々な情報を総合して判断します。また、診断がついたとしても、それは「お子さんに必要な支援を受けるための手続き」であり、お子さんの価値を下げるものではありません。

結果が悪かったら、将来はどうなりますか?

知能検査の結果で将来が決まることはありません。

IQは固定されたものではなく、適切な支援や環境によって変化します。また、社会で活躍するために必要な能力は、IQだけではありません。人間関係を築く力、努力する力、創造性など、数値に表れない重要な能力がたくさんあります。

子どもにはどう伝えたらいいの?

検査結果は、お子さんに直接詳しく伝えることはありません。

年齢や特性に応じて、お子さんには「君の得意なことが分かったよ」「こうすると勉強しやすいことが分かったね」といった、前向きな形で伝えます。

この記事は、実際の心理支援経験と保護者の方々の声に基づいて作成していますが、お子さんの個別的な状況については、必ず専門機関にご相談ください。

【更新履歴】

2025年12月11日:記事全体の構成を見直し、内容をより分かりやすく修正。記事タイトルとアイキャッチ画像を変更。

2025年10月14日:文章の構成を見直し、内容をより分かりやすく修正。記事タイトルとアイキャッチ画像を変更。

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この記事を書いた人

専門資格:公認心理師、精神保健福祉士、社会福祉士(いずれも国家資格)
総支援歴:23年(発達障がい児者支援が中心)
専門領域:ASD, ADHD, SLDの臨床心理査定、二次障害の予防、家族支援
実績:総合病院の内の発達障害支援部門や児童専門相談機関等で延べ2,000件超の支援実績。養育里親歴12年。里子・実子の養育経験。

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