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「天才!」で喜ぶ親の危険な落とし穴:ギフテッドの子を持つ親が陥る「5つの誤解」と正しい支援

著者:森山 暖(もりやま はる)  

公認心理師 | 総支援歴 23年(発達障がい支援中心)

[プロフィールページへのリンク]

⚠️天才児ゆえの「不適応」という現実

世間で「天才児」と呼ばれるギフテッドのお子さんたちが、実は学校で問題児扱いされ、高い割合で不登校に陥っているという現実をご存知でしょうか?

近年、メディアでも注目される「ギフテッド」。しかし、間違ったイメージが先行し、子どもたちを苦しめているケースが急増しています。

心理支援者として数多くのご家庭を支援してきた経験から、ギフテッドの子を持つ保護者が陥りやすい危険な誤解について、今こそ警鐘を鳴らしたいと思います。


目次

🔍 そもそも「ギフテッド」とは何なのか?

まず押さえたい基本定義

ギフテッド=先天的に高い知性や特異な才能を持つ子ども

  • IQ130以上が目安(人口の約2~3%)
  • 男女比:やや男児が多い傾向
  • 遺伝要因:約50~80%が遺伝的影響

⚡ここが重要!

文部科学省は「特定分野に特異な才能のある児童生徒」として、才能があるからこそ学習上・学校生活上の困難を抱えることがあると明記しています。

つまり、ギフテッドとは「高い才能ゆえに、学習上・学校生活上で特別な困難を抱え、配慮と支援が必要な子ども」なのです。

知っておくべき2つのタイプ

🎯 英才型ギフテッド

  • 理解力・記憶力に優れる
  • 全般的な分野で高い知能
  • 従来の「優等生」イメージに近い

⚡ 2E型ギフテッド(Twice-Exceptional:二重の例外性)

  • ギフテッド特性+発達障がい特性を併せ持つことで、才能が困難に隠されやすい
  • 得意分野は天才的、苦手分野は極端に困難
  • 発達の凸凹が非常に大きい
  • 理解されにくく、支援が複雑

⚠️ 保護者が陥る「5つの危険な誤解」

これらの誤解が子どもを追い詰める原因になっています

💥 誤解①「ギフテッド=天才で何でもできる」

現実はこうです▼

  • ほとんどのギフテッドは一部分野のみ突出
  • 他の分野では年齢相応、または平均以下のことも
  • 凸凹の激しさ最大の特徴

📚 歴史上の天才たちの意外な一面

  • アインシュタイン:暗記科目は全くダメ、学校から退学勧告
  • モーツァルト:お金の管理や日常生活は破綻状態
  • エジソン:小学校で「頭が悪い」と言われ中退

💥 誤解②「早期からエリート教育が必要」

現実はこうです▼

  • 2014年に発足した「東京大学異才発掘プロジェクトROCKET」は、2021年度をもって支援を終了¹
  • プロジェクト代表の中邑賢龍教授は「才能一点突破を求めるあまり、社会性や基礎的な部分がおろそかになった」「本人や家庭がかえって孤立する状況が見えた」と振り返っている²

なぜ課題が生じたのか?

  • 中邑教授によると「能力開発を急ぎすぎて”燃え尽き”や強いプレッシャーによる離脱が発生した」²
  • 「悩みに悩んだ結果、『異才発掘』という看板を下ろすという考えに至りました」として、選抜型・才能偏重型アプローチの限界を認めた¹

💔 実体験:「うちの子天才!」と舞い上がった母親の失敗談

Aさん(40代母親)の体験

息子が3歳で掛け算を覚え、5歳で小学3年生の問題を解いた時、私は確信しました。「この子は天才だ!」

📈 エスカレートする期待

  • 年長で小学4年生の問題集を購入
  • 英語、プログラミング、ピアノ、公文…週6日習い事
  • 「天才の息子」としてSNSで毎日投稿
  • 親戚や知人に自慢話を繰り返し

💔 現実は厳しかった…

  • 小学校入学後:授業を「つまらない」と拒否
  • 友だち関係:「君は違う」と孤立
  • 基本的生活習慣:着替えや片付けが全くできない
  • 協調性:集団行動を極度に嫌がる

➡結果:小学2年生で不登校に…

息子は私に言いました。「天才じゃなくてもいいから、普通の子どもでいたい」

🔄 方向転換後

専門家の助言で「天才教育」をやめ、基本的な生活習慣と友だち作りに焦点を当てた結果、息子は少しずつ学校に通えるように。今は「この子らしさ」を大切にした子育てを心がけています。


💥 誤解③「ギフテッド=発達障害」or「発達障害ではない」

真実▼
ギフテッドと発達障害は全く別の概念

しかし、かなりの割合で発達障害を併せ持つ(2E型)のも事実です。

🎯 3つのパターンを理解しよう

パターン特徴支援のポイント
純粋ギフテッド発達障害なし
高い知的能力
才能を活かす環境作り
発達障害のみギフテッド性なし
支援が必要
特別支援教育
2E型両方の特性
複雑な凸凹
個別化された複合支援

💥 誤解④「学校で活躍するはず」

現実は真逆▼

📊 文部科学省の調査結果
ギフテッドのお子さんの約3割が不登校または登校渋り

なぜ学校で問題が起きるのか?

  • 授業が簡単すぎて退屈
  • 「なぜ?」が多くて先生を困らせる
  • ルールの意味を理解できず反発
  • 同年代と感覚が合わず孤立

💥 誤解⑤「長所に見える完璧主義という危険な落とし穴

実は危険な落とし穴▼

ギフテッドの完璧主義深刻な問題の温床

完璧主義が招く4つの問題

  1. 挑戦回避:失敗を恐れて新しいことに取り組めない
  2. 燃え尽き:高すぎる基準で自分を追い詰める
  3. 対人問題:他者にも完璧を求めて衝突
  4. うつ傾向:「完璧でない自分」を責め続ける

😰 ギフテッドの子が直面する「深刻な困難」

🏫 学校での孤立と「浮きこぼれ」現象

📝「浮きこぼれ」とは?
能力が高すぎて集団に馴染めず、上に浮いてしまい、こぼれ落ちる状態

具体的な困難

  • 授業が簡単すぎて集中できない
  • 同年代と話題が合わない
  • 先生に「扱いにくい子」と思われる
  • 「なぜこんなことをするの?」という疑問が多すぎる

⚡ 過度激動(OE)による日々の苦痛

ギフテッドの80%以上3に見られる特性。外部からの刺激や内的な感情・思考に対し、年齢不相応なほど強烈かつ長時間反応し続ける性質を指します。

🎯 5つのOEタイプ

OEタイプ特徴一覧
🏃 精神運動性OEじっとしていられない
動きながら考える
ADHDと誤解されやすい
👂 感覚性OE光・音・匂いに極度に敏感 衣服の感触を嫌がる
学校環境が苦痛
💭 想像性OE空想の世界に没頭 創造的だが理解されにくい
現実逃避と捉えられる
🧠 知性OE「なぜ?」を連発、知識欲が尽きない
既存の権威やルールへの徹底的な疑問
大人を困らせる
💝 情動性OE感情の起伏が激しい
他者の痛みを自分のように感じる 「扱いにくい子」と見られがち

🚫 不登校リスクが異常に高い理由

📈 統計データ
一般的な不登校傾向の割合:約3.2%
ギフテッドの不登校傾向の割合:約30%

4大原因

  1. 学習内容が簡単すぎて苦痛
  2. 集団行動・形式的ルールへの疑問
  3. 感情コントロールの困難さ
  4. 周囲との違いによる深刻な孤立

💔 誤った対応が招く「取り返しのつかない結果」

📉 アンダーアチーブメント(能力の埋没)

才能があるのに発揮できない状態

特に2E型で深刻

  • 発達障害の特性に隠れて才能が見過ごされる
  • 「問題のある子」としてのレッテル
  • 本人も自分の才能に気づけない

💸 自己肯定感の破綻的低下

⚠️ 保護者のNGワード集

  • 「天才なのになぜできないの?」
  • 「もっと頑張れるでしょう?」
  • 「あなたは特別なんだから」
  • 「期待してるのに」

→ 子どもは「期待に応えられない自分はダメ」と思い込む

🏥 二次障害の深刻化

適切な理解・支援がないまま成長すると

二次障害具体的症状長期的影響
うつ状態無気力、希死念慮社会適応困難
不安障害過度な心配、パニック引きこもり
自傷行為リストカット等生命の危険
摂食障害拒食・過食身体的影響

✨ 今日からできる「適切なサポート方法」

1️⃣ 子どもの特性を正しく理解する

🎯 重要な心構え
ギフテッドは「神様からの贈り物」ではなく「特別な配慮が必要な特性」

具体的にやること

  • ✅ 完璧を求めない
  • ✅ その子らしさを受け入れる
  • ✅ 才能と困難を両方理解する
  • ✅ 個人差があることを認識する

👍 保護者のOKワード集(ポジティブな声かけ)
「どうしたらいいか、一緒に考えようか?」
「難しいことに挑戦したのがすごいね」
「あなたの努力とプロセスを見てるよ」
「そのままのあなたが大切だよ」

2️⃣ バランスの取れた基礎力育成

得意分野だけでなく「生きる力」全体を育てる

重視すべき4つの分野

項目内容
📚 基礎学力・計算・漢字の反復 ・文章読解力 ・論理的思考
🏠 生活スキル・整理整頓 ・時間管理 ・身の回りの自立
👥 社会性・コミュニケーション ・協調性 ・ルールの理解
💪 体力・基礎体力 ・運動習慣 ・健康管理

3️⃣ 学校・専門機関との連携強化

やるべき具体的アクション

  1. 担任への情報提供(ギフテッドの特性説明資料)
  2. スクールカウンセラーとの定期面談
  3. 個別の配慮事項を文書で共有
  4. 問題発生時の対応方法を事前に相談

💡 学校への伝え方のコツ

  • 「特別扱いしてください」ではなく「理解してください」
  • 具体的な困り感とその対策を提示
  • 成功例・改善例を共有

4️⃣ 専門的な相談・支援を活用

相談できる専門家・相談先

相談先相談内容の例期待できること・特徴
ギフテッド専門の当事者会・親の会・ギフテッドの特性に関する全般的な相談
・学校生活での悩み(不登校、集団生活の難しさなど)
・親子関係、家庭での接し方
・2Eの悩み
・同じ境遇の保護者との交流
・ギフテッドに特化した専門的な知識に基づいたアドバイス
・オンラインや対面での保護者交流会、講演会、イベントへの参加
・孤独感の解消、同じ悩みを持つ仲間との出会い
・個々の特性に合わせた具体的なサポートのヒント
教育センター・教育相談センター・学校生活、不登校に関する相談
・知的な発達や学習方法についての相談
・学校との連携、合理的配慮について
・公的機関なので無料で相談できることが多い
・地域の教育事情に詳しく、学校との連携やサポート体制について助言を得やすい
・教育の専門家が在籍しており、学習面や学校生活に関する具体的な対応策を検討できる
児童精神科・情緒の不安定さやメンタルヘルスの問題
・発達障害の疑いなど、医学的な診断や治療が必要な場合
・医学的な観点から、お子さんの特性を診断・評価してもらえる
・必要に応じて、投薬治療や心理療法などの専門的な治療を受けられる
・他の医療機関や支援機関との連携も期待できる

💝 最後に:子どもの幸せを最優先に

ギフテッドの子どもたちが求めているのは「特別扱い」ではなく「適切な理解と配慮」

才能を伸ばすことも大切ですが、それ以上に重要なのは、その子が自分らしく幸せに生きていけるよう支えることです。

🌟 専門家から保護者へのメッセージ

「ギフテッド」という光と影を持つレッテルに振り回されず 目の前のお子さんの「SOS」に耳を傾け その子にとって「生きる喜び」につながる支援を一緒に考えましょう

💝 完璧な親でなくて大丈夫
子育ては試行錯誤の連続です。
専門機関や同じ悩みを持つ保護者とつながりながら、お子さんの成長を支えていってください。

⚠️ 免責事項
この記事は心理支援者としての専門的見地から執筆していますが、個別のケースについては必ず専門機関にご相談ください

【参考・出典】

文部科学省『特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する 学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議 論点整理』2021.12.17

1 日本財団「異才発掘プロジェクト ROCKET」公式サイト/東京大学先端科学技術研究センター「異才発掘プロジェクトROCKET基金」公式サイト https://www.nippon-foundation.or.jp/what/projects/rocket<br>
² 東洋経済オンライン「東大『異才発掘プロジェクト』の看板を替えた真意」(2021年10月5日)中邑賢龍教授インタビュー

3Aliza Alias,Saemah Rahman,Rosadah Abd Majid、Siti Fatimah Mohd Yassin 「Dabrowski’s Overexcitabilities Profile among Gifted Students」(Asian Social Science, 2021年)

【更新履歴】

2025年10月15日:文章の構成を見直し、内容をより分かりやすく修正。出典を明記。

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この記事を書いた人

専門資格:公認心理師、精神保健福祉士、社会福祉士(いずれも国家資格)
総支援歴:23年(発達障がい児者支援が中心)
専門領域:ASD, ADHD, SLDの臨床心理査定、二次障害の予防、家族支援
実績:総合病院の内の発達障害支援部門や児童専門相談機関等で延べ2,000件超の支援実績。養育里親歴12年。里子・実子の養育経験。

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