「発達障がい」という言葉を耳にする機会が増え、ご自身のお子さんについて気になる点や不安を抱える方も多いのではないでしょうか。この記事では専門家の視点から、「発達障がい」の定義や特徴、気づきやすいサイン、保護者としての対応のポイントについて、できるだけわかりやすくご説明します。
1.発達障がいの基本的な定義
発達障がいとは、生まれつき脳の働きに特性があるため、主に社会生活や学習に何らかの困りごとがあらわれる状態を言います。決して「親の育て方が悪かった」わけではありません。本人の努力不足でもなく、子ども自身や家族を責める必要はないことを、まず強調しておきたいと思います。
日本では2005年に「発達障害者支援法」が施行され、発達障がいは以下のように定義されています。
「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能の障害であって、その症状が通常低年齢で発現するもの」(発達障害者支援法より)
このように、発達障がいは脳の特性によって生じる障害であり、症状は乳幼児期や学齢期にあらわれやすいことが特徴です。
2.発達障がいの主なタイプ
発達障がいにはいくつかのタイプがあります。誰もがはっきりと分類されるわけではなく、それぞれの特性が重なり合っている場合も多いです。
1)自閉スペクトラム症(ASD)
社会性やコミュニケーション、想像力の面で困難さがみられる状態です。「スペクトラム」とは連続体という意味です。同じ「自閉スペクトラム症」という診断でも、一人ひとりが異なる個性や特性を持っているということを表すために、「スペクトラム(連続体)」という言葉が使われています。
集団でのやりとりが苦手、自分の世界に没頭しがち、興味が限られる、いつもと同じやり方や環境を好む、といった特徴がみられます。
2)注意欠如・多動症(ADHD)
「注意が散りやすい」「落ち着きがない」「思いつきで動く」といった特性がみられます。忘れ物やうっかりミス、席を立ってしまう、順番を待つのが苦手など、年齢相応の行動と比べて著しい場合に診断されます。多動性が目立たなくても、注意の持続が難しい「不注意優勢型」と呼ばれるタイプもあります。
3)限局性学習症(SLD)
読む・書く・計算するといった特定の学習分野で、極端に困難を感じる状態です。知的発達に大きな遅れがないにもかかわらず、文字がうまく読めない、数字の理解が難しい、文章を書くことに大きな困難があるなどが特徴です。
4)複数の特性を併せ持つ場合
発達障がいのタイプが一つだけでなく、複数重なるケースも多くみられます。たとえば、ASDとADHDを併せ持つ、SLDとADHDの両方の傾向があるケースも少なくありません。
3.年齢別の「気づきのサイン」
お子さんのいつもと違う行動や成長のペースは、家庭でも学校でも気になるポイントです。発達障がいのサインは年齢や発達段階によって異なります。
乳幼児期(0~5歳ごろ)のサイン
- 呼びかけても反応が薄い、目が合いにくい
- 言葉の発達が遅い、一方的な言葉の繰り返しが多い
- 集団遊びや、ごっこ遊びが苦手
- 過度なこだわり(同じ道順を通りたがる、同じ物しか食べない)
- 並べる、回すなど同じ遊びを繰り返す
小学校低学年以降
- 授業中座っていられない、順番待ちができない
- 忘れ物が多い、物をよくなくす
- うっかりミスが多い
- 友達とのトラブルが多い、空気が読めないと言われる
- 読み書きや計算が極端に苦手
思春期・中高生
- 集団から孤立しやすい
- 強いストレスや不安による体調不良が増える
- 学校に行けなくなる、引きこもる
- こだわりや気分の変動が強くなる
年齢とともにサインの現れ方は変わりますが、「保育園や学校でよく注意される」「家庭以外の場面で困りごとが目立つ」といった場合は、発達に何らかの特性が影響している可能性があります。
4.いわゆる「グレーゾーン」について
診断基準を満たさないものの、集団生活や学習面で困りごとが生じている場合、「グレーゾーン」と呼ばれることがあります。このグレーゾーンのお子さんも、周囲の理解や支援がとても重要です。「うちの子は診断されていないから」と安心せず、気になる点があれば早めに専門機関に相談することが今後のために大切です。
5.保護者が知っておくべきポイント
・早期発見・早期支援の大切さ
発達障がいは早い段階で気づき、適切な支援を受けることで生きづらさが大きく軽減します。例えば、授業中ずっと座れないお子さんに「頑張れ」と言うより、席の場所を工夫する、短時間ずつ区切って集中できるようにするといった対応が有効です。
・相談するタイミング
「家では困っていないけれど、学校でよく指摘される」「同年代より苦手なことが多い」「担任の先生から指摘された」などの場合、なるべく早めに地域の発達相談窓口や児童精神科、民間の心理相談機関などに相談しましょう。小さなことでも一人で悩まず、専門家に気軽に相談してください。
・家庭でできる工夫・配慮
予定を絵や文字で見える形で示す、必要なものを一緒にリストアップして忘れ物を防ぐ、「できたこと」に注目して自己肯定感を育てる——こうした小さな工夫が日常生活で役に立ちます。また、兄弟姉妹にもわかりやすく説明し、理解を深めることも大切です。
まとめ ~お子さんの「違い」は「困りごと」だけではありません
発達障がいの特性は、お子さんの個性や長所とも深く関係しています。たとえば、好きなものへの集中力や独自の考え方は、その子自身の魅力や将来の可能性を育む力になります。
大切なのは、お子さんに合った環境や関わり方を工夫し、本人が安心できる場所を作ることです。ご家族や周囲が理解し、迷った時は専門家に相談することも、ぜひ大切にしてください。
お子さんもご家族も「生きやすい毎日」になりますよう、今後も一緒に考えていきましょう。

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