目次
はじめに
第4回は、味覚過敏と温痛覚過敏について詳しく解説いたします。
「食べられる食品が制限されて栄養バランスが心配」「本気で入浴を嫌がる」「注射で普通以上の苦痛を感じる」といった悩みは、お子さんの健康や成長に直接関わる重要な問題です。
これらの過敏さも、これまでお話ししてきた他の感覚過敏と同様、強い不快感や苦痛としてお子さんが実際に体験しています。
👅 味覚過敏:味・食感への過敏性と対処法
見られやすい反応
味覚過敏のあるお子さんには、以下のような反応が見られることがあります
- 味の強度への敏感さ
- 少量の塩味や酸味が非常に強く感じられる
- 苦味や辛味を過剰に嫌がる
- 甘味を「きつすぎる」と感じることがある
- 食感への強いこだわり
- 特定の食感(硬い、柔らかい、ざらざら等)を拒否する
- 複数の食材が混ざった料理を嫌がる
- 温度による食感の変化も苦手
- 栄養面での心配
- 食べられる食品が限られ、栄養バランスが偏る
- 給食を食べられず、昼食をほとんど摂らない
- 成長に必要な栄養素が不足する可能性
- 社会生活での困難
- 外食や友達との食事ができない
- 学校行事や宿泊学習で食事に困る
- 食事を巡って家族間でストレスが生じる

具体的な対処法
1️⃣ 食材・調理法の工夫
食感を調整する方法:
- 硬い食材は細かく刻んで好きな食べ物に混ぜる
- 調理法を変えて食感を調整する(揚げる、煮る、焼くなど)
- ミキサーやフードプロセッサーで細かくする
- 冷凍・解凍を利用して食感を変える
味付けの工夫:
- 薄味から始めて段階的に慣らす
- 調味料を少量加えて食べやすい味にする
- 温度調整で味の感じ方をコントロール
- 食材を分けて提供する

2️⃣段階的なアプローチ
スモールステップで少量から挑戦
ステップ | 具体的な方法 |
---|---|
①観察期間 | スプーンにすくうだけ、匂いを嗅ぐだけ |
②接触期 | 唇に触れるだけ、舌先で少し舐める |
③少量期 | 米粒大の量から始める |
④拡張期 | 慣れた食材から似たものへ応用 |
重要なポイント:
- ✅一口食べられたらその場ですぐに褒める
- ✅無理なく、子どものペースに合わせて
- ✅体調の良い時を狙って挑戦する
- ✅好きな食べ物と一緒に提供する
3️⃣ 食事環境の整備
リラックスできる食事環境
- 静かで落ち着いた雰囲気で食事する
- 家族が美味しそうに食べる様子を見せる
- 子どもと一緒に野菜を育てたり料理をする
- 食べやすい温度(冷たい、温かい)を意識する
- 食事中のテレビは控えめにして食事に集中する

4️⃣ 便利グッズと栄養補助
調理器具
- フードプロセッサー・ブレンダー:食感を変える
- すり鉢・すりこぎ:少量の食材を細かくする
- 製氷皿・シリコンカップ:小分けして少量ずつ提供
- 分割プレート:食材が混ざることを防ぐ
栄養補助用品
- ゼリータイプの栄養補助食品:学校や宿泊学習での栄養確保
- ブロックタイプの栄養食品:手軽に栄養摂取が可能
- 偏食用サプリメント:不足しがちな栄養素を補う
- 栄養強化された飲み物:牛乳やジュースで栄養補給
🌡️ 温痛覚過敏:温度・痛みへの過敏性と対処法
見られやすい反応
温痛覚過敏のあるお子さんには、以下のような反応が見られることがあります
温度感覚
- 気温変化への極度の敏感さ
- 過剰な暑がり・寒がりを示す
- 適切な衣服調節ができず、季節に合わない服装をする
- エアコンの設定温度で家族と意見が合わない
- 入浴・シャワーの大変さ
- シャワーやお風呂の温度調節が難しい
- 「熱すぎる」「冷たすぎる」の幅が非常に広い
- 入浴自体を嫌がり、衛生管理に支障が出る
- 飲食の温度
- 熱い飲み物や冷たい食べ物に過敏な反応
- 「人肌」の温度でないと口にできない
痛覚
- わずかな刺激でも激しい痛みとして感じる
- 医療行為や注射時に通常以上の苦痛を感じる
- 衣服の縫い目やタグが痛みとして認識される
- けがや傷の痛みが長く続く
- 痛みによる恐怖で医療機関受診を拒む

具体的な対処法
1️⃣温度調節の工夫
室温・衣服の管理:
- 室温を細かく調節し、子どもが感じる適温を見つける
- 重ね着しやすい服装を準備し、こまめに調節する
- 温度計を使って客観的な温度を確認する
- 季節の変わり目は特に注意して体温調節
入浴時の工夫:
- 温度を段階的に調節し、徐々に慣れる
- 入浴用温度計でお湯の温度を正確に測定
- 温度表示付きシャワーヘッドで適温を視覚的に確認
- 短時間から始めて徐々に入浴時間を延ばす
2️⃣痛み軽減の工夫
病院受診時の配慮:
- 事前に病院に特性を説明する
- どんなことをするかを事前に詳しく説明し、不安を軽減
- 好きな音楽や動画で気を紛らわせる
- 手を握るなどの安心できる配慮

3️⃣おすすめグッズ
グッズ | 特徴 |
---|---|
デジタル温度計 | 室温・お湯の温度測定 |
冷却・温熱パッド | 首や脇などのクールダウン |
サーモスタット付き暖房器具 | 設定温度で自動ON/OFF |
体温調節用ベスト | 簡単に温度調節可能 |
低刺激の絆創膏やテープ | はがす際の痛みや肌荒れの防止 |
医療機関との連携
事前準備と情報共有
医療機関に伝えるべき情報:
- 具体的な感覚過敏の内容(どのような痛みに特に弱いか)
- これまでの医療体験と反応の程度
- 効果的だった対処法
対処前の準備:
- 処置内容の事前説明(絵カードや写真を使用するとわかりやすい)
- 処置時間の見通しを具体的に伝える
- 安心グッズの持参(お気に入りのぬいぐるみなど)
- 家族が処置に付き添うことで安心感
歯科・小児科での配慮例
歯科治療時:
- 段階的な慣らし(まずは診察台に座るだけから)
- 使用する器具の事前説明。実際に触ってみる
- 短時間での処置と休憩の確保
予防接種・採血時:
- 最も細い針の使用を依頼
- 冷却パック等で痛みを軽減
- 好きな動画や音楽で注意をそらす

学校給食への対応
学校との連携ポイント
担任・栄養士との情報共有:
- 食べられる食品リストの提供
- 代替食品や栄養補助の相談
- 弁当持参の許可申請
- 食事時間の配慮(時間延長・場所の変更)
給食時の具体的な配慮例
- 少量からの提供
- 食材の分離提供
- 栄養補助食品の持参許可
- 弁当持参との併用
家庭でできる取り組み
食育
楽しい食体験の創造:
- 一緒に料理を作る体験で食材への興味を増やす
- 家庭菜園やベランダ栽培で食材への親近感を育てる
- 食べ物の絵本や図鑑で知識から入る
- 特別な日の食事で前向きな食体験
記録と振り返り
食事と成長の記録をつける:
- 食べた食品の記録
- 体調と気温と食欲の関係
- 成功した工夫や環境
- 体重・身長の成長曲線チェック
💝保護者の皆さんへ
無理せず長期的な視点で
味覚過敏・温痛覚過敏への対応では、「今すぐ」を求めず、お子さんのペースを大切にすることが最も重要です。
- 成長とともに徐々に改善することが多い
- 栄養バランスは長期的な視点で考える
- 専門機関、専門家と連携して取り組む
- 家族全体でサポートする体制づくり
感覚過敏は個性の一部です。正しい理解とサポートがあれば、お子さんらしい成長を支えることができます。

次回予告
第5回は「体内感覚の過敏さと家庭でできる工夫」について詳しくご紹介します。
- 空腹感や満腹感の調節が困難
- 心拍や呼吸の変化で不安になりやすい
- 疲労感や体調変化を敏感に感じる
このような体の内側からの感覚への対処法や、安心できる環境づくりの工夫をお伝えします。
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