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ペアレントプログラム徹底ガイド【第5回】ギリギリセーフ!をきわめる~状況分析と環境調整で「できる」を育てる~

著者:森山 暖(もりやま はる)  

公認心理師 | 総支援歴 23年(発達障がい支援中心)

[プロフィールページへのリンク]

第4回で「ギリギリセーフ」という革命的な視点を学び、困った行動の裏にある頑張りを発見しました。お子さんと自分自身を見る目が、きっと優しく温かくなったのではないでしょうか?

第5回では、発見したギリギリセーフをさらに深めて「きわめる」段階に入ります。「いつ・どこで・誰と」の状況分析を通じて、ギリギリセーフが起こりやすい条件を見つけ、環境を整えることで「できる」を育てる具体的な方法を学びます。


目次

第5回で体験すること

🎯 第5回の目的

ギリギリセーフが起こる状況や条件を分析し、環境調整によって子どもの「できる」を最大限に引き出す方法を身につけます。

⏰ 第5回の流れ(約90分)

  1. 前回の宿題振り返り(20分)
  2. 状況分析の重要性(15分)
  3. 「いつ・どこで・誰と」分析ワーク(25分)
  4. 環境調整のアイデア創出(20分)
  5. 実践計画作成と次回への宿題(10分)

前回の宿題振り返り~ギリギリセーフ実践週間の成果

第5回では、前回の宿題「ギリギリセーフ発見ノート」と「ギリギリセーフを生かした声かけ実践」の体験談から始まります。多くの参加者が驚くべき変化を報告してくれます。

✨ ギリギリセーフ発見ノートの成果

Xさん(7歳女児の母)の発見記録

「1週間で15個のギリギリセーフを発見できました!娘の『宿題をダラダラやる』→『最終的には必ず完成させる』、『友達とよくケンカする』→『仲直りも早い』など、毎日新しい発見があって楽しかったです」

Yさん(5歳男児の母)の実践報告

「息子が癇癪を起こした時、『嫌だったこと、ちゃんと教えてくれてありがとう』と声をかけたら、泣き止むのがとても早くなりました。息子も『ママ、わかってくれた』と言ってくれて、私も嬉しかったです」

💫 ギリギリセーフ実践による親子関係の変化

保護者の変化

  • イライラの軽減:問題行動を見ても冷静でいられる時間が増えた
  • 声かけの変化:叱る前に認める言葉が自然に出るようになった
  • 観察力の向上:子どもの良いところを見つける目が鋭くなった

子どもの変化

  • 自信の向上:認められることで前向きな行動が増えた
  • 甘えの表現:素直に甘えたり相談したりするようになった
  • 挑戦意欲:新しいことにチャレンジする気持ちが見られる

状況分析の重要性~「いつ・どこで・誰と」の魔法

🔍 なぜ状況分析が必要なのか?

同じ子どもでも、状況によって「できる」「できない」が大きく変わります。この状況を分析することで、子どもが最も力を発揮できる環境を整えることができます。

🌟 状況分析で見えてくること

  • 得意な時間帯:朝は集中できる、夕方は疲れやすいなど
  • 安心できる場所:自分の部屋、リビング、学校のどこが良いか
  • 相性の良い人:誰といると力を発揮しやすいか
  • 効果的な働きかけ:どんな声かけや支援が有効か

📊 状況分析の3つの軸

📅 「いつ」の分析

  • 時間帯:朝・昼・夕方・夜のどの時間が得意か
  • 曜日:平日・週末・学校行事のある日など
  • 季節・天気:体調や気分に影響する環境要因
  • その他:食前・食後、遊んだ後・疲れた時など

🏠 「どこで」の分析

  • 場所:家・学校・習い事の場・公園など
  • 環境:静か・にぎやか・明るい・薄暗い
  • 空間:広い・狭い・一人になれる・みんなと一緒
  • 物の配置:整理整頓・多少散らかっている・必要な物が近くにある

👥 「誰と」の分析

  • 一緒にいる人:一人・親・兄弟・友達・先生
  • 関わり方:見守る・一緒にやる・声をかける・任せる
  • 人数:1対1・少人数・大勢
  • 雰囲気:リラックス・緊張・楽しい・真剣

この分析方法は、困った行動(例:癇癪、拒否)が起きた時にも有効です。「いつ・どこで・誰といる時に癇癪が起きやすいか」を分析することで、その行動を誘発する環境要因を避けるためのヒントも得られます。


状況分析ワーク~自分編から始めよう

👩 自分のベストコンディション発見

子どもの状況分析の前に、まず自分自身の「いつ・どこで・誰と」を分析してみます。これは、状況分析の練習にもなります。

📝 自分編状況分析の例

行動うまくいく時(いつ・どこで・誰と)うまくいかない時
家事をする朝の時間帯・キッチンで・子どもが学校に行った後・音楽をかけながら夕方疲れた時・子どもがいる時・時間に追われている時
子どもと話す夜寝る前・子どもの部屋で・1対1で・ゆっくりした雰囲気で朝の忙しい時・リビングで・他の用事をしながら
リラックスする夜・自分の部屋で・一人で・好きな本を読みながら昼間・リビングで・家族がいる時・やることが残っている時

💡 自分編分析の気づき

Zさん(6歳男児の母)の発見

「自分の分析をしてみて、『朝の1時間が自分のゴールデンタイム』だと気づきました。この時間を大切にして、難しい家事や大事な用事はこの時間にやるようにしたら、1日がとてもスムーズになりました」


子ども編状況分析ワーク~「できる条件」を見つけよう

👶 子どもの「できる条件」発見ワーク

いよいよ子どもの状況分析です。第4回で発見したギリギリセーフを中心に、「どんな時にそのギリギリセーフが起こりやすいか」を詳しく分析していきます。

📋 子ども編状況分析の手順

  1. ギリギリセーフリストから1つを選ぶ(3分)
  2. 「うまくいく時」の条件を「いつ・どこで・誰と」で分析(15分)
  3. 「うまくいかない時」の条件も同様に分析(10分)
  4. ペアで見せ合い、新しい視点を得る(7分)

🌟 子ども編状況分析の具体例

ギリギリセーフうまくいく時うまくいかない時
宿題を最終的にはやるいつ:夕食後
どこで:ダイニングテーブル
誰と:お母さんが近くにいる

その他:テレビを消して、明るい照明で
学校から帰ってすぐ・自分の部屋で・一人で・テレビがついている時
友達とケンカしても仲直りするいつ:次の日の朝
どこで:学校の教室
誰と:先生が見守ってくれている時
その他:一晩経って気持ちが落ち着いた後
ケンカした直後・人がたくさんいる場所・感情的になっている時
片付けを声をかければするいつ:遊び終わった直後
どこで:リビング
誰と:お母さんと一緒に
その他:「一緒にやろう」の声かけで
遊びの途中・自分の部屋で・「片付けなさい」という指示で

🎯 状況分析から見える重要なパターン

🔍 よく見つかるパターン

  • 時間的余裕:急かされない、十分な時間がある時にできる
  • 安心できる環境:慣れた場所、安心できる人がいる時
  • 適度なサポート:一人では難しいが、ちょっとした支援があればできる
  • 動機や理由:「なぜやるのか」が分かっている時
  • 体調・気分:元気な時、機嫌が良い時にはできる

環境調整のアイデア創出~「できる」を増やす工夫

🛠️ 状況分析を活かした環境調整

状況分析の結果を基に、「うまくいく条件」を意図的に作り出すアイデアを考えます。これが環境調整の核心です。

🌟 環境調整の基本原則

  • できる条件を増やす:うまくいく時の条件を意識的に作る
  • 困る条件を減らす:うまくいかない時の条件を避ける
  • 段階的に調整:一度に全部変えず、一つずつ工夫する
  • 子どもと相談:本人の気持ちや希望も聞く
  • 視覚的支援の導入:スケジュール表、絵カード、タイマーなど、視覚的な手がかりで見通しを持たせる

💡 具体的な環境調整アイデア例

課題できる条件環境調整のアイデア
宿題が進まない夕食後・明るい場所・お母さんがそばにいる時・夕食後のダイニングテーブルを「宿題専用時間・場所」にする
・お母さんも近くで読書や家事をする
・照明を明るくする
朝の支度に時間がかかる前日に準備・時間に余裕がある・褒められる時・前日の夜に一緒に準備する時間を作る
普段より10分早く起こす
・できたことを具体的に褒める
片付けができない一緒にやる・「ありがとう」と言われる・音楽がかかっている時「片付けタイム」の音楽を決める
・親も一緒に片付ける
・終わったら「ありがとう、助かった」と伝える

🏠 家庭でできる環境調整の工夫

AAさん(11歳女児の母)の環境調整成功例

「娘の宿題問題を状況分析したら、『お風呂の後・リビングで・私が料理をしている音が聞こえる時』にスムーズに進むことがわかりました。今では、お風呂上がりにリビングのテーブルで宿題、私はキッチンで翌日の準備をする、というパターンができて、毎日ストレスなく宿題が終わります」


ギリギリセーフを「いいところ」に育てる方法

📈 ギリギリセーフの成長ステップ

環境調整によって「できる」機会が増えてくると、ギリギリセーフが「いいところ」に成長していきます。

🌱 成長の3段階

  1. ギリギリセーフ段階:「条件が整えばできる」
  2. 安定実行段階:「多くの場面でできるようになる」
  3. いいところ段階:「自然にできる・得意なこと」になる

✨ 成長を支える3つのポイント

1. 成功体験の積み重ね

環境調整によって「できた!」体験を増やし、子どもの自信を育てる

2. 適切なフィードバック

できた時には具体的に褒め、できなかった時も努力や過程を認める

3. 段階的な挑戦

慣れてきたら少しずつ条件を変えて、より多くの場面でできるように支援

🌟 成長事例

BBさん(5歳男児の母)の成長報告

「息子の『声をかければ片付ける』から始まって、環境を整えて成功体験を積み重ねた結果、今では『遊び終わったら自分から片付ける』ようになりました。3ヶ月かかりましたが、ギリギリセーフが本当に『いいところ』に育ちました!」


第5回の宿題~環境調整実践週間

📚 3つの宿題

宿題1:環境調整実践

  • 今日考えた環境調整アイデアを1つ選んで実践する
  • 1週間続けて、効果を記録する
  • うまくいかない場合は、条件を微調整してみる

宿題2:状況観察日記

  • 子どもの「できた瞬間」を詳しく記録
  • 「いつ・どこで・誰と・どんな工夫で」できたかメモする
  • パターンを見つけて、新しい環境調整のヒントを探す

💡 記録のポイント

  • できた行動の詳細
  • その時の状況(時間・場所・人・環境)
  • 子どもの表情や反応
  • 自分の気持ちの変化

宿題3:家族会議での共有

  • 子どもの「できる条件」を家族で共有する
  • 家族みんなで環境調整に協力する体制を作る
  • 子ども自身にも「どんな時にやりやすい?」と聞いてみる

🤔 宿題でつまずきやすいポイントと対策

Q: 環境調整をしても効果が見られない時は?

A: 効果が出るまでに時間がかかることがあります。最低1週間は続けて、それでもダメなら条件を少し変えてみましょう。

Q: 子どもが環境調整を嫌がる時は?

A: 子どもと一緒に「どうしたらやりやすい?」と相談してみてください。子ども自身のアイデアを取り入れると、協力的になりやすいです。


第5回を終えて~「環境デザイナー」としての保護者

🎨 新しい役割:環境デザイナー

第5回を終えた参加者は、「環境デザイナー」という新しい視点を手に入れます子どもを変えようとするのではなく、子どもが力を発揮できる環境を作り出す専門家になるのです。

🎯 環境デザイナーとしての視点

  • 子どもの「困ったところ」は環境の問題:子どものせいではなく、環境が合っていない
  • 小さな調整で大きな変化:ちょっとした工夫で劇的に改善することがある
  • 個別最適化:その子に合った「オーダーメイド環境」を作る
  • 成長に合わせた調整:子どもの成長と共に環境も進化させる

🌱 参加者の意識変化

CCさん(7歳男児の母)の感想

「これまで『息子が宿題をしない』と悩んでいましたが、状況分析をして環境を整えたら、息子なりに頑張れる条件があったことがわかりました。子どもを変えるのではなく、環境を変えるという発想は目からウロコでした。私は息子の『環境デザイナー』なんですね」

🔮 次回(第6回)への期待

次回はいよいよ最終回「ペアプロでみつけたことを確認する!」です。6回の学びを振り返り、ビフォーアフターの変化を実感し、今後の子育てに活かす計画を立てます。

🎯 次回予告:第6回のポイント

  • 6回の学習成果の振り返りと確認
  • 参加前後の変化(ビフォーアフター)を実感
  • 今後も続けていきたい取り組みの計画作成
  • 仲間との絆を深める最後の共有タイム

参加者へのエール

あなたは今日から、お子さんのための「環境デザイナー」です。

子どもを変えようと頑張るのではなく、子どもが輝ける環境を作り出すプロフェッショナルとして、自信を持って子育てに取り組んでください。

小さな環境調整が、お子さんの大きな可能性を引き出すきっかけになります。そして何より、環境を整えることで親子関係がもっと楽しく、もっと温かいものになるはずです。


次回「第6回 ペアプロでみつけたことを確認する!」でお会いしましょう 🌸

【参考・引用】

NPO法人アスペ・エルデの会『楽しい子育てのためのペアレント・プログラムマニュアル』、2014年

【更新履歴】

2025年10月15日:文章の構成を見直し、内容をより分かりやすく修正。

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この記事を書いた人

専門資格:公認心理師、精神保健福祉士、社会福祉士(いずれも国家資格)
総支援歴:23年(発達障がい児者支援が中心)
専門領域:ASD, ADHD, SLDの臨床心理査定、二次障害の予防、家族支援
実績:総合病院の内の発達障害支援部門や児童専門相談機関等で延べ2,000件超の支援実績。養育里親歴12年。里子・実子の養育経験。

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